福島原発のトリチウム水は海洋放出すべき?できない理由は?

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福島第1原発で汚染水の浄化後の処理水が増え続けていますが、このままだと2022年の夏頃にはタンクが満杯になるとも言われております。

この問題について大阪市の松井一郎市長が、次のような発言をして物議を醸しています。

「処理済みで自然界の基準を下回っているのであれば、科学的根拠を示して海洋放出すべきだ。」

なぜこの発言が問題になるのでしょうか? この浄化処理水が、なぜ問題になっているのかというと、トリチウムという放射性物質は処理しても取り除くことが難しいからです。

放射性物質を海に放出? それを聞くと危険そうに思えますが、松井市長はなぜこのようなことを言ったのか?

また、トリチウムとは、どういったもので危険はないのか?

この辺りについて探っていきたいと思います。

タンクのイラスト

トリチウムとは?

そもそもトリチウムとは、何なのでしょうか?

トリチウムというのは、水素の同位体(アイソトープ)で三重水素(さんじゅうすいそ)などと呼ばれることもあります。

同位体というのは、原子番号は同じですが、中性子数が異なる原子のことをいいます。原子は陽子と中性子から構成される原子核があって、その周りを電子が周回しております。地球が太陽の周りを周回しているような感じです。

イメージ的には下図のようになりますが、実際は原子を東京ドームで例えると原子核の大きさは野球のボール、電子の大きさはパチンコ玉なんて言われることがありますね。

原子核と言っても原子によって大きさが違うので、この例えがどこまで正しいかはわかりませんが、実際の原子の中身が想像以上にスカスカなのは間違いありません。

ちなみに太陽系もスカスカです。地球を直径1センチに例えてみると、太陽の大きさは1メートル強で地球と太陽の距離は約117メートルになるそうです。

原子の構造

水素の場合の原子核は陽子、中性子それぞれ1つずつで構成されておりますが、トリチウムは陽子1つと中性子2つで構成されております(下図参照)。

ちょっとむずかしいかも知れませんが、要するにトリチウムは水素の仲間ということです。

陽子1つと中性子2つの状態は不安定であり、β線という放射線を放出(β崩壊)してヘリウム3という原子に変化します。

トリチウムの半減期は?

トリチウムがβ崩壊するなら、福島の処理水は何もしないで待っていれば、いずれトリチウムがなく無っていくのでしょうか?

トリチウムが無くなる目安となるのが半減期です。半減期とは物質が放射性崩壊して半分の料になるまでの時間をいいます。

トリチウムの半減期は約12.3年です。つまり、12年たてば今タンクに入っているトリチウムの量は半減することになりますが、2022年に福島のタンクは満杯になるということなのでそんなに待って入られませんね。

また、12.3年待っても半分になるだけで、まだトリチウムは残っております。トリチウムがなくなるまでは、さらに時間が必要となります。天然の雨水と同程度のトリチウム濃度になるには約240年かかるとも言われております。

雨のイラスト

トリチウムは自然界にも存在する?

放射線を出して、何やら危ない感じのするトリチウムですが、実は自然界にも微小に存在しております

身近な例を上げれば、雨水や海、川の水にもトリチウムは含まれております。

川のイラスト

あるスポーツドリンクが川の水で作られていると聞いたことがありますが、だったらもう飲めないじゃないかと思うかも知れません。

しかしながら、トリチウムは水道水にも含まれておりますし、大気中に存在する水蒸気の中にも存在します。つまり、我々はトリチウムを避けることは不可能であり、知らず識らずのうちに体内にも取り入れております。

それどころか、人間の体は成人で60%以上が水分ですが、実はその中にもトリチウムが混在しているといいます。

この事実にはショックを受ける方もいるかも知れませんが、専門家が言うにはトリチウム水の影響は、

「健康への影響を考える場合、濃度が問題になるが、国の基準以下の低い濃度であれば、健康への影響はほとんど考えれない。」

だそうです。放射線にはα線、β線、γ線がありますが、γ線はエネルギーが高いので金属なども通り抜けますが、β線は金属で遮ることができます。トリチウムの放つβ線は通常のβ線よりもさらに弱く、紙で遮ることができます

トリチウムが除去できないのはなぜ?

では、トリチウムが処理しても除去できないのはなぜなのでしょうか?

トリチウムは水に溶けているというよりも、分子レベルで水と結合しております。

下図のように通常の水は酸素原子(O)1つと水素原子(H)2つから構成されますが、トリチウム水は酸素原子とトリチウム(T)1つ、水素原子1つ、または酸素原子とトリチウム2つで構成されます。

そして、トリチウム水は普通の水と同じような性質を持つため、そのことが分離を難しくしております。

トリチウム水の分子

海外ではトリチウム水を放出している?

トリチウム水は原発を稼働させれば必ず発生する物質です。では、世界には多くの原発が存在しますが、トリチウムをどのように処理しているのでしょうか?

実はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、中国など世界中で原発から出たトリチウム水を海に放出しております。公表されていないようですが日本でも、海に流しているようです。もちろん、その際は十分に濃度を薄めております。

2019年9月5日、韓国の科学技術情報通信省が福島の処理水について、

「隣国として、海洋放出の可能性とこれに伴う潜在的な環境への影響に深刻な憂慮がある」

と言ってきましたが、韓国でもトリチウム水を日本海に放出しております。正直、トリチウム水の放出について韓国に何かと言われる筋合いはないと言えるでしょう。「お宅の国も、海に放出してますよね?」と反論してあげればよいと思います。

原子力発電所のイラスト

福島原発の処理水を海に放出しないのはなぜ?

トリチウム水は世界中で海に放出されているなら、なぜ福島原発の処理水を海に流さないで溜め込んでいるのかという疑問が出てきます。

海に流してしまえば、2022年に満杯になる心配もありません。

それはなぜかというと、漁業関係者などが風評被害を心配しているからです。科学的に安全基準を満たしていると言っても、やはり放射性の水を海に流して、そこでとれた魚介類を食べるのに抵抗を感じる人は必ずいます。

しかも、その数は少数ではありません。日本経済新聞の2018年12月のアンケート調査によると、仮に処理水を海に放出した場合、福島県の海産物を「購入したくない」と回答した人は「26.4%」いるそうです。

確かに処理水の海洋放出を懸念する人がこれだけいると漁業関係者は無視できないでしょう。

風評被害を防ぐためには政府やマスメディアが、国民に説明していかなければいけませんが、どちらもこの件に関しては触りたくないといった雰囲気を感じます。

漁業のイラスト

トリチウム以外の放射性物質も含まれていた?

タンクに保存されている処理水にトリチウム以外のストロンチウム90などの放射性物質が含まれていることが発覚し、問題となりました。

ただこれには理由があって、元々は海洋放出を目的に処理していたわけではなく、単に放射線量を下げるために処理していたためだといいます。

トリチウム以外の放射性物質を含んでいる水は再処理すればトリチウム以外の放射性物質の量を基準値以外まで下げることができるそうです。

トリチウム水を飲むパフォーマンス

ツイッターなどを見ていると、「トリチウム水の安全性に問題ないというなら、おまえが飲んでみろ」といった投稿を見かけます。

しかし、家庭から出た生活排水などは処理して川や海に放出しております。当然、飲料水とは安全基準が異なるはずだし、この放出前の水を飲んでみろというのはおかしいですよね?

それでもこんなエピソードがあります。

2019年10月10日の東電主催の会見で、フリーライターが

「第一原発に立ち入れないので東電の情報を信じるしかない。飲んでも大丈夫なら実際にコップに出してみなさんに飲んでもらうのは無理か」

と迫ったところ、内閣府の政務官が処理水をコップに入れて飲んで見せました。その後、この政務官が倒れたとかいう報道は聞かないですね。

コップに入った水のイラスト

 

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