ニュースで青森県六ケ所村に建設中の使用済み核燃料の再処理工場は、運転開始が延期されたなどと聞くことがあります。
この再処理工場は核燃料サイクルを行うための工場ということですが、一体何を行う工場なのでご存知でしょうか?
簡単にいえば、原発の使用済み燃料からプルトニウムと呼ばれる物質を取り出すところなのですが、日本では今このプルトニウムが余っていて問題になっております。
- 核燃料サイクルとはどういった仕組みなのでしょうか?
- 日本では、なぜプルトニウムが余剰状態となっているのでしょうか?
- プルトニウムを減らすには、どうすればよいのでしょうか?
- プルサーマル炉、高速炉って何なのでしょうか?
このあたりについて、お伝えしていきたいと思います。
核燃料サイクルとは?
核燃料サイクルとは、どういったことなのでしょうか?
これは原子力発電の使用済み燃料を再処理して「MOX燃料」と呼ばれる核燃料に加工します。そしてそれをもう一度、原子力発電に利用しようという試みです。
MOX燃料とは?
「MOX燃料」とは何なのでしょうか?
それを知る前に原発のウラン燃料について知って必要があります。
原発の燃料はウランですがこれは、核分裂をしやすいウラン235と核分裂をしにくいウラン238で構成されております。燃料に含まれる比率はウラン235が「3~5%」で残りがウラン238です。
本来、天然のウランにはウラン235は約0.7%しか含まれておりません。そこで核燃料として使用するためにはウラン235の比率を上げる必要があるのですが、この処理をウラン濃縮といいます。
よく、遠心分離機で北朝鮮やイランがウラン濃縮を実施したとかニュースになりますよね。例えば、次のようなニュースです。
イランを巡る情勢が急速に悪化している。引き金となったのは、2018年にトランプ米大統領が「イラン核合意」からの離脱を表明したこと。対抗措置として、イランは15年の合意で制限された範囲を超えるウラン濃縮活動を再開した。濃縮度の上限3.67%を破棄、20%に引き上げることも視野に入れている。(2019年7月9日 ロイター)
ちなみに核兵器として使用する場合は、核分裂しやすいウラン235を90%以上にする必要があります。ニュースにはウラン濃度を20%に引き上げるとありますが、これでは、まだまだ核兵器に使用するには、不十分だということがわかります。
さて、原発で燃料を燃やすとやがてウラン235は核分裂によって減っていき、一部のウラン238はプルトニウムに変化します。
原発で使用して残ったウラン238と新たに生成されたプルトニウムを再処理によって組み合わせたのが「MOX燃料」となります。
「MOX燃料」は通常の原発では使用できませんが、日本に10基程度あるプルサーマル炉と呼ばれる原発で使用することができます。
「MOX燃料」はプルサーマル炉の他に高速炉で使用することができますが、これについては後述します。
核燃料サイクルの仕組みについて簡単におさらいしておきます。
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原発で発電することで使用済み核燃料が発生
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使用済み核燃料を再処理して「MOX燃料」を生成
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プルサーマル炉で「MOX燃料」を使って発電
核燃料サイクルのメリットとは?
このように核燃料サイクルには、使用済み核燃料を再利用することで資源の有効活用ができるというメリットがあります。
また、通常の原発から出た使用済み核燃料は、そのまま捨てると天然のウラン並みの有害度になるまでは10万年かかりますが、核燃料サイクルによって再処理によって発生した放射性廃棄物は、これを8千年まで減らすことができます。
デメリットとしては、使用済み核燃料の再処理などを行うことによって、発電コストが通常の原発よりも高くなってしまうことです。また、後述しますが、プルトニウムの余剰問題というのも発生しております。
核燃料の再処理はどこで行われている?
現在日本では使用済み燃料はイギリスやフランスに委託して再処理しております。そのため、取り出されたプルトニウムの多くは、まだこれらの国にあります。
青森県六ケ所村に建設中の再処理工場は、外国に委託していたこの処理を日本で行えるようにするためのものです。
ところが日本では現在、プルトニウムの余剰問題があって、これ以上増やさないためにも再処理はするべきではないといった声があります。
六ケ所村の再処理工場には、現在使用済み核燃料が保管されておりますが、再処理が行われないとすると、これをこのまま放っておくのかという話になります。地域住民の理解を得ることは難しいでしょう。
(六ケ所村の再処理工場 出典:Wikipedia)
すでに大量に存在する使用済み核燃料
日本には使用済み核燃料を保管するフィンランドのオンカロのような施設はありません。
しかし、すでに使用済み核燃料は大量に存在していて、その量は2万トンとも言われます。これは収容可能容量9000トンといわれる強大なオンカロにも収容できないほどの量です。
日本においてオンカロのような施設を作ることは、地域住民の理解を得ることが難しく、不可能に近いと言っていいでしょう。
それでも、すでに大量にある使用済み核燃料をこのままにしておくわけにはいきません。廃棄する場所を探すか、それが無理なら核燃料サイクルでできるだけ量を減らすかしなければならないのです。
原子力政策は各国とも未来の技術革新を信じてこれまで進んできましたが、いったん進んでしまうと、途中でやめるのが難しいといった面があります。
プルトニウムの余剰問題とは?
核燃料サイクルにはデメリットもあります。それは本来は起こるはずではなかったプルトニウムの余剰問題です。
日本が保有するプルトニウムは2016年末の時点で「約47トン」で、これは核保有国以外では突出している数字です。
ご存じの方は多いと思いますが、プルトニウムは核兵器への転用で、この日本の余剰プルトニウムは核拡散のリスクから問題視されております。トランプ政権はプルトニウムの削減を日本に要求してきました。
米政府が、日本が保有するプルトニウムの削減を求めてきたことが9日分かった。プルトニウムは原子力発電所から出る使用済み核燃料の再処理で生じ、核兵器の原料にもなるため、米側は核不拡散の観点から懸念を示す。
(日本経済新聞 2018/6/10)
では、プルトニウムを削減するにはどうしたらよいのでしょうか?
プルトニウムを消費するには?
日本は余剰プルトニウムを減らす必要性があります。プルトニウムは放置しておけば、やがて崩壊していきますが、天然のウラン並みの有害度になるまでは10万年かかります。
フィンランドの放射性廃棄物最終処分場「オンカロ」は、400メートル以上の地中深くに埋めて10万年待つというものです。
西暦はようやく2千年を超えましたが、10万年というのは、本当に気の遠くなるような話ですね。
プルトニウムを意図的に消費するには2つの方法があります。
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プルサーマル炉で「MOX燃料」を使用
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高速炉と呼ばれる原子炉で「MOX燃料」を使用
「MOX燃料」というのは、ウラン238とプルトニウムの混合燃料であることは以前に説明したとおりです。
高速炉とは?
高速炉は研究中の原子炉ですが、これを利用すれば放射性廃棄物が「天然のウラン並の有害度」になるまでの期間を300年程度まで減らすことができます。
高速炉の種類には「もんじゅ」で有名な高速増殖炉がありますが、これは「MOX燃料」を使用して、発電しながら消費した以上のプルトニウムが新たに増やすことができる高速炉のことです。「MOX燃料」に含まれる分裂しにくいウラン238がプルトニウムに変化します。
つまり高速増殖炉を使用するとプルトニウムが減るどころか逆に増えてしまいます。
なぜこのようなものが必要なのかというと、プルトニウムも燃料になるので、資源の少ない日本では以前は期待されていたからです。ところが、現在では逆に処理できないプルトニウムが増えすぎているという問題が発生しております。
高速増殖炉「もんじゅ」はトラブルが続いたことなどにより2016年12月21日に廃炉が決定されています。プルトニウムを削減したい日本でありますが、高速増殖炉はプルトニウムが減るどころか増えてしまうといったことも、廃炉の背景にあるのかもしれませんね。
現在は「もんじゅ」に変わる新たな高速炉の開発が検討されていますが、政府の本気度が感じられないという声もあります。
(もんじゅ 出典:Wikipedia)
余剰プルトニウムが増える背景
余剰プルトニウムが増える背景には、高速炉の開発状況が思わしくないこと、「MOX燃料」対応のプルサーマル炉再稼働が進まないといったことが上げられます。
東京電力の福島第1原発事故が起きて以来、原発の再稼働は進んでいない状況で、稼働中のプルサーマル炉は4基のみです。
また、プルサーマル炉でない原発も稼働しておりますが、使用済み核燃料が増えることでプルトニウムが増える要因となってしまいます。
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