政府は再生可能エネルギーを主力電源化することに、舵を切ったということがニュースになっておりました。
政府は3日、中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」を4年ぶりに改定し、閣議決定した。太陽光や風力など再生可能エネルギーを「主力電源化」と明記。
(毎日新聞 2018年7月3日)
再生可能エネルギーをもっと増やすべきだといった声をよく聞きますが、再エネは本当にそんなにすばらしいものなのでしょうか。
- 再生可能エネルギーにはどんなものがある?
- 再生可能エネルギーのメリットとは?
- 再生可能エネルギーにデメリットは?
- 再生可能エネルギーの今後の見通しや課題は?
- 固定価格買取制度ってなに?
これらの再エネに関する疑問について、できるだけわかりやすく解説していきます。
再生可能エネルギーとは?
そもそも、再生可能エネルギーとは、いったいどういうものなのでしょうか?
石油や石炭といった化石燃料は資源に限りがあります。これに対し、資源が枯渇せずに繰り返し利用できるエネルギーのことを再生可能エネルギーといいます。
具体的には次のものが当てはまります。
- 太陽光
- 風力
- 地熱
- 水力
- 太陽熱
- バイオマス
バイオマスとは聞き慣れない方もいるかも知れませんが、簡単にいうと動植物などから生まれた生物資源の総称のことをいいます。
バイオマスがなぜ再生エネルギー?
ここでバイオマスは植物などが資源となっているので、「燃やして発電に利用したら温室効果ガスが発生するのでは?」と疑問に思うかも知れません。
確かにバイオマスは燃やすと二酸化炭素を排出しますが、植物は成長の過程において二酸化炭素を吸収して光合成をします。
つまり燃やしてとしても、成長の段階で吸収したものを排出しているので、二酸化炭素を増やさないと見なされております。このことは1997年に制定された「京都議定書」において決定されました。
バイオマス発電についてもっと詳しく知りたい方は次の記事を参照して下さい。
バイオマス発電は再生可能エネルギー?そのメリット・デメリットとは?
再生可能エネルギーのメリットとデメリットは?
今いろいろと騒がれている再生可能エネルギーには、いったいどのようなメリットがあるのでしょうか? もちろん、いいことばかりでなく、デメリットも存在ます。では、それらを見ていきましょう。
再生可能エネルギーのメリット
再生可能エネルギーには簡単に大きくわけると3つのメリットがあります。
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枯渇しない
-
比較的どこにでも存在する
-
二酸化炭素などの温室効果を排出しない
また、資源を輸入に頼ることなく国内で生産できることから、エネルギー安全保障の観点に置いても期待されております。
このメリットはエネルギーの多くを輸入に頼っている日本にとっては、とても重要なことでもあるので、そういった観点でいうと、今後再エネを増やしていくことが必要不可欠となっております。
再生可能エネルギーのデメリット
再生可能エネルギーのメリットを知ると、本当にすばらしいと感じるかも知れませんが、もちろんデメリットもあります。では、それらを見ていきましょう。
発電量のコントロールが困難
太陽光発電や風力発電は天候などに左右されるため、需要に合わせて発電するということができません。そのままにしておくと需要と供給のバランスがくずれ、大規模な停電などのリスクが発生してしまいます。
北海道では地震のため大規模停電(ブラックアウト)が発生して問題になりましたね。今や電気は生活にかかせないため、電気がなければ非常に困ったことになります。
冷蔵庫が使用できなければ食べ物の保存ができませんし、マンションなどでは水を使用することができなくなり、トイレも使うことができない場合もあります。
東日本大震災のときにも、計画停電が実施されましたが、長時間の停電を経験したことがある人なら、その苦しみがよくわかると思います。
そのため、再生可能エネルギー電源の他に火力発電などを待機させておいて発電量を調節する必要があります。また、こういった不安定な電源の比率が大きいと、電力量のコントロールが難しくなってしまいます。
発電コストの課題
再生エネルギーのデメリットは他にもあります。
近年では急速に増えている太陽光発電は発電コストの課題もあります。2014年の時点では、太陽光発電の発電コストは火力発電の2倍以上でした。
-
石炭火力:1kWhあたり12.3円
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天然ガス火力:1kWhあたり13.7円
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太陽光:1kWhあたり29.4円
ですが、ヨーロッパでは太陽光発電や風力発電の発電コストが急速に下がっていて、今では比較的低コストである火力発電よりも安くなっております。こうしたコストの低減化がさらなる再エネ導入拡大につながるという好循環が生まれています。
ドイツなどでは比較的早い時期から、こういった再生可能エネルギーに力を入れ、投資をしていたからですが、日本でも同程度にコストが安くなることが期待されております。
日本でのコストが高い背景には太陽光パネルや風力発電機が高いこと、設置費用が高いことなどが挙げられますが、さらなる普及のためにはコストがもっと安くなることが課題となっております。
固定価格買取制度とは?
固定価格買取制度とは、再生可能エネルギーの普及を目的として2012年7月にスタートした制度で「FIT制度」とも呼ばれます。
具体的には太陽光発電等の再生可能エネルギーで発電した電気をすべて電力会社が買い取ることを義務付けた制度です。その際の買い取り費用ですが各家庭が発電促進賦課金(はつでんそくしんふかきん)として電気料金に上乗せされております。
単純にわかりやすくいえば、再エネのための発電コストを我々国民が負担すると行った制度です。
再生可能エネルギー発電の増加とともに発電促進賦課金は年々上昇する傾向にあり(下記参照)、2018年には標準家庭において、月額754円となっております。
発電促進賦課金(標準家庭) | |
2012 | 月額66円 |
2013 | 月額105円 |
2014 | 月額225円 |
2015 | 月額474円 |
2016 | 月額675円 |
2017 | 月額686円 |
2018 | 月額754円 |
発電促進賦課金の月額は改めて見ると、かなり高いと感じる方もいるかも知れませんが、ドイツにおいては2016年度には標準家庭における月額負担は、なんと約5ユーロ(約2,440円)となっています。
ドイツと言えば、言わずと知れた再エネ先進国ですが、その裏では国民の莫大な負担があるということですね。
日本においても、再生可能エネルギーを利用した発電は増え続けているので、この料金はまだまだ上がっていくことが予想されます。
太陽光発電の余剰電力買取は先行して開始
日本では固定価格買取制度が本格的にスタートしたのは2012年ですが、それに先駆けて、2009年11月に太陽光発電の余剰電力買取が開始されました。
このときの余剰電力の買い取り価格は「1kWhあたり48円」(10年間)と非常に高価だったので、再生可能エネルギーを導入する人が急速に増えていきました。
ちなみに2012年のFIT制度開始時の価格は「1kWhあたり42円」(10年間)です。その後、買取価格は段階的に引き下げられ、2019年では開始時の半分の「1kWhあたり24円」(10年間)となっております。
2019年に10年間の満期を迎えて、余剰電力の固定価格買取が終了する家庭などが出てきますが、その後の買取価格は「1kWhあたり10円以下」になる見込みになるとかテレビで報道されておりました。
最も発電コストが安いとされている原発のコストが「10.1円/1kWh」なので、固定価格買取後の太陽光の発電コストは、それ以下ということになります。
いきなり5分の1近い価格に下がるということになるので、制度開始時に利用した人は残念に思っているかも知れません。
固定価格買取制度のデメリットは?
再エネの普及につながるはずの固定価格買取制度(FIT)ですが、もちろんデメリットもあります。
この制度を利用して太陽光パネルを設置すれば、ほぼ確実に元手を回収して設けることができます。では、なぜ儲かるのかというと電気料金に発電促進賦課金を上乗せして、我々がその費用を賄っているからです。
発電促進賦課金はお金持ちだろうと貧乏人だろうと平等に支払っております。しかし、太陽光パネルを設置できるのは基本的にはお金を持っている人で、貧乏人が設置することは困難でしょう。
したがって、お金がある人が益々儲かって、それでいてパネルが設置できないお金のない人は、ただ搾取されているだけということになってしまいます。
そのためか、経済産業省は固定価格買取制度の終了を検討しているという情報もあります。
再生可能エネルギーの今後の見通し
再生可能エネルギーの今後の見通しはどうなっているのでしょうか?
日本政府が発表している再生可能エネルギーの導入目標は2030年に電力全体の「22~24%」となっております。ちなみに2016年度での実績は「15.3%」なので、これはそれほど達成が難しい目標とは言えないと考えられます。
今後も再生エネルギーを増やしていくことを一応は掲げていますが、この目標はヨーロッパと比較して低すぎるのではないかという批判もあります。
スペイン・イギリス・イタリアでは2020年に「30~40%」に達する目標を掲げているほか、ドイツは2030年に「50%以上」という高い目標を掲げております。原子力大国であるフランスでも2030年に「40%」を目指しております。
背景には日本の地理的条件の問題
確かに、これらのヨーロッパ諸国と比較すると日本の目標はかなり低い印象があります。ですが、イギリスは島国ですが、ヨーロッパ諸国は基本的に陸続きで、お互いの国々で電力を融通しあうことが可能となっております。
ヨーロッパでは、いざというときの保険があるので、エネルギー安全保障面で強気の目標が立てやすいのです。
それに対し、日本は島国なので簡単に他国と電力を融通しあうことができません。再エネ目標がヨーロッパと比較して低い背景には、こういった地理的条件の問題もあると考えられます。
再生可能エネルギーは発電が不安定という特徴を持ちますが、これだと従来のエネルギーと比較して停電を起こすリスクが高くなります。
発電する電力が足らないと停電するのはよくわかりますが、実は電力が過剰になっても停電する場合があるのです。ドイツなどの再エネ先進国では、すでに過剰電力を克服するための設備が整っておりますが、日本はまだそうはなっておっておりません。
電気があることが当たり前の現在の生活においては、北海道地震で起こったような大規模停電(ブラックアウト)はあってはならないことです。
ブラックアウトのような事態が起こらないためにも、無理をせず計画的に再エネを増やしていく必要があると言えます。
欧州で再エネの主力は風力発電?
固定価格買取制度の導入によって日本では太陽光発電は順調に普及してきておりますが、風力発電の普及は遅れており、このへんが課題となっております。実は欧州で主力となってきているのは太陽光ではなく、風力発電のほうなのです。
2015年度におけるヨーロッパ各国の風力発電の割合は、次のようになっております。
- ドイツ:12.3%
- スペイン:17.7%
- イギリス:12.0%
これに対し日本では2018年度で風力発電の割合はわずか「0.7%」です。欧州とは、比較にならないほどの大きな差を付けられておりますね。
なぜ、日本では風力発電がなかなか普及しないのでしょうか?
風力発電のメリットは、太陽光発電が昼間しか発電できないのに対し、夜でも発電できるということです。デメリットとしては、騒音問題などがありますが、そのへんをもう少し詳しく見ていきましょう。
日本で風力発電が普及しない背景
日本で風力発電が普及しない背景には、騒音問題で以前に騒がれていたことなどがあります。
たとえ一般人には聞こえないような静音設計で風車を作成していても、うるさいと感じる人達が稀にいるそうです。
そういった人たちは、普通の人間には聞こえない範囲の周波数の音が聞こえてしまうといいます。つまり簡単言えば、常人を超えた特別な聴力を持った人たちということです。
また、風力発電の敵地が自然公園などと重なっていて景観を損ねるなどの問題もあります。
最近ではそういった問題を避けるために、洋上風力発電が期待されておりますが、海運や漁業者など、ほかの海域利用者との調整をはかることが必要となってきます。
もしかしたら、これらの人たちに多少なりとも被害を及ぼすこととなり、調整のための費用が発生して発電コストが上がってしまうかも知れません。
また、日本は比較的台風が多い国ですが、強すぎる風より発電機に負荷がかかって故障することもあります。故障するどころか、2018年には淡路島で台風のため、風車が倒壊するというショッキングな事故もありました。
洋上風力発電に暗雲?
期待されている洋上風力発電ですが、2020年12月12日に共同通信から次のようなショッキングなニュースが流れました。
政府が、福島県沖に設置した浮体式洋上風力発電施設を全て撤去する方針を固めたことが12日、関係者への取材で分かった。東京電力福島第1原発事故からの復興の象徴と位置付けて計約600億円を投じた事業で、民間への譲渡を模索していたが、採算が見込めないと判断した。
この洋上風力発電事業は、福島原発事故の復興の象徴として2012年から行っていた事業ということです。
600億円という巨額の予算が投じられたのですが、残念なことに採算が見込めないということで施設を撤去するということです。稼働率が思うように上がらなかったことが原因ということです。
事業の失敗は痛いことですが、さらに撤去費用で50億円かかるとか。かなり無駄金のような気もしますが、海の上に使用しないゴミ施設を置き続けるわけにもいかないので、致し方ないですね。
経産省の担当者は「事業のノウハウを蓄積でき、成果が得られた」と語ったそうですが、洋上風力発電に暗雲がたちこめるニュースだったと思います。
まとめ
再生可能エネルギーのメリット・デメリットについて紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
- 再生可能エネルギーとは資源が枯渇せずに繰り返し利用できるエネルギーである。
- 再エネのメリットは「枯渇しない」「比較的どこにでもある」「温室効果ガスを排出しない」「資源を輸入に頼らなくていい」などがある。
- 再エネのデメリットは「発電量の調節が困難」「発電コストが高い」などがある。
- ヨーロッパにおいては再エネの発電コストはすでに火力発電を下回っている。
- 再エネのコストがヨーロッパ並に下がれば、爆発的に普及していく可能性がある。
- 固定価格買取制度(FIT制度)とは再エネで発電した電気をすべて電力会社が買い取ることを義務付ける制度である。
- 固定価格買取制度の買い取り必要は各家庭の電気料金に上乗せされている。
- 日本政府が発表している再生可能エネルギーの導入目標は2030年に電力全体の「22~24%」である。
- ヨーロッパで再エネの主流となっているのは風力発電であるが、日本ではあまり普及していない。
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